文 阿川弘之 絵 岡部冬彦 1959年 岩波書店
やえもんは、いなかのおんぼろ機関車です。 足や背中がいたいので、駅を出るときは、「ひゃあ!」と一声悲鳴をあげ、
「しゃっ しゃっ しゃっ しゃっ しゃっ しゃっ しゃっ
しゃっ しゃっ しゃっ しゃくだ しゃくだ しゃくだ……」
と怒りながら走り出します。 そうすると、やえもんと同じくらい年よりの客車が、後ろから、
「ちゃんちゃん かたかた けっとん」
「とっても つかれて けっとん」
「ほんとに いやだよ けっとん」とはやしながらついてきます。
なんともいい響きでしょう。
都会の駅にやってきたやえもんは、ぴかぴかのレールバスや特急たちの横で、汚い自分の姿が悲しくなります。おまけに、お弁当の石炭を食べている時、新しい電気機関車に「やあい やあい せきたんくいの やえもんやい、せきたん くって、おいしいか!」「おなかの なかまで まっくろけの びんぼう ぎしゃ やあい」とからかわれます。 自分の古ぼけた姿にしょんぼりしたやえもんを見ると、胸が痛みますが、いじわる電気機関車の文句を聞くと、やえもんには悪いけれども、おかしくて、つい吹き出してしまいます。
腹を立てたやえもんは、帰る途中まっかな火の粉を吹き出して、田んぼを火事にしてしまい、とうとうくず鉄にされることになってしまいました。 あわや連れていかれるところで、交通博物館の人がやえもんを引き取ってくれることになり、それからやえもんは博物館で子どもたちに昔話をしながら、たのしく暮らすのでした。
なんともリズムのいい文にのって、作者のやさしいあたたかい気持ちが流れてくるようです。やえもんの生き生きした表情に、こちらもやえもんといっしょになって、悲しんだり、反省したりしてしまいます。はらまきをしたお百姓や、ねじり鉢巻のすててこをはいたおじさん、ぐりぐりぼうずのゆかたの小学生など、登場人物たちも懐かしく、ほのぼのした気持ちにさせられます。
この文を書くために、「やえもん」を読みなおしたら、ふと、「やえもんと同じくらい年をとった客車」はどうなったのだろうな、と心配になってしまいました。 何度も読んでいた子どものころは、まったく気づきもしなかったのですが。
「きかんしゃ やえもん」は、1959年の初版以来1999年まで、じつに51版を重ねています。 このやさしいあたたかい物語が、ずうっと子どもたちに愛されてきたのだな、と思うと、とてもうれしい気持ちがします。